挑戦者ファイル

11 白尾 純一 精密機械カンパニー ロボットビジネスセンター 自動車一部 設計二課
自然科学研究科 電子情報システム工学専攻修了 2007年入社

ロボット制御の未知なる領域へ。顧客先で過ごしたプレッシャーの日々。

パソコンで制御する他社製の装置を、
ロボットコントローラから制御せよ。

「これは・・・、本当に実現できるのか?」

白尾は、新たに担当することとなった開発案件の説明を受けながら、険しい表情を見せていた。その案件とは、レーザー溶接ロボット用の制御ソフトウェアの開発。顧客は自動車メーカーだ。ボディの製造ラインにロボット式のレーザー溶接を導入することによって、工程をよりシンプルにし、コストダウンとスピードアップを図れないかと依頼があったのだ。

開発要請を受けた白尾は、さっそく構想を練り始めた。今回の開発では、川崎重工が作るロボットに、他社製のレーザー溶接装置をセットして用いる必要がある。実はここにこの案件の難しさがある。レーザー溶接装置はパソコンで制御するタイプのもの。対して、川崎重工のロボットはロボットコントローラから制御を行う。当然のことながら両者がバラバラに動いては、求める機能は果たせない。ロボットが高速に動く中で、ねらったところに装置がレーザーを照射するよう、ロボットと装置を同期させなければならない。この協調性の実現が、ポイントだった。

白尾の描いたプランは、レーザー溶接装置の制御ソフトを、川崎重工のロボットコントローラに搭載し、集中制御するというもの。目指すゴールははっきりし、そこに至る道筋もぼんやりと見えてはいた。しかし、最終的に組み込んだ末に、求めるパフォーマンスが出るかどうかはやってみなければわからない。そして、レーザー溶接装置のメーカーが、どこまで川崎重工の相手をし、開発につきあってくれるかも。白尾がこれまで開発してきたのは、ロボットコントローラに限定されたソフトウェアだ。ところが今回は、通常パソコンで制御する他社製の装置を、ロボットコントローラから制御するソフトウェアの開発。初めての試みであるとともに、必要となる知識の幅も半端ではない。白尾は関連資料に丹念に目を通しつつ、パソコン向けの制御ソフトをロボットコントローラ向けに改修していった。そのまま移管しただけでは使い物にならない。ドライバやライブラリをどう設定すべきか? 装置メーカーのエンジニアと情報交換しながら、一つひとつ課題をひもとく。装置側の改修が必要となる部分はメーカーに依頼。そうして一歩ずつ細かいステップを刻みながら前へ進み、何とかロボットコントローラへの制御ソフトの組み込みを終えた。

1日の予定だった出張が一週間に。
胃が痛くなるような思いで設定変更を繰り返す日々。

開発プロセスは、当初より懸案だったパフォーマンス試験へ。動くには動いたものの、レーザー溶接装置の制御に時間がかかりすぎて、ロボットの動きと同期しない。装置へ指示を出す演算処理が重すぎたのだ。白尾は、それぞれの演算にかかる時間を計測し、分散するなどして調整。さまざまな試行錯誤を経て、ようやく試験機を完成させた。

あとは顧客先でのセットアップを行うだけと、白尾は1日の出張願いを提出して顧客の工場へ向かった。溶接のテストラインに設置して、いざ動作確認。しかし、レーザーは照射されなかった。顧客担当者の顔色がにわかに曇る。「なぜだ?」白尾は焦った。すぐさま原因を探るも、状況は変わらず。いったんテストラインから下ろさざるを得なかった。

それからは、顧客先で原因究明の日々が続いた。日中は他の実験で使用されるためテストは夜間しかできない。そのため日中に仮説に基づくテストメニューを組み立て、夜間、テストラインを用いてそれらを試す。しかし溶接装置はなかなかレーザーを吐き出してはくれなかった。テストに与えられた期限が迫るなか、白尾は胃が痛くなるような思いで設定変更を繰り返す。今回の開発で変更したのはソフトウェアだけ。だから必ず、原因もソフトウェアにある。可能性を一つひとつつぶしていけば、絶対に原因に突き当たるに違いない。それはソフトウェアエンジニアとしての白尾の信念でもあり、意地でもあった。そして顧客先に赴いて一週間後、それまで沈黙を守っていた溶接装置がついにレーザーを照射した。原因は、やはりプログラムにあった。自動車ボディというモノがない中で社内テストを実施していたことにより、見抜けなかったバグだった。それを現場で解決にこぎ着けた白尾の、粘り強い信念が勝った瞬間だった。「これで帰れる・・・」、白尾は安堵に包まれた。

パソコン制御の装置とロボットとの協調性の確立。当初、実現性さえ疑問視されたこの技術は、それ以降、他のロボット開発にも活用されている。白尾が、ロボット制御の新たな可能性を拓いたといえよう。「ソフトウェア開発では、おおよそ人の頭で思いつく機能は実現できる」というのが白尾の持論。その信条を胸に、白尾はこれからもロボット制御の限界へ挑戦していく。

学生時代の私

大学生活で打ち込んだことといえば、やはり研究活動ですね。後半の3年間は、研究に費やす時間も非常に多かったです。そこで得た専門知識は、ある程度現在でも役に立っていますが、それ以上に、私の所属した研究室は自主性を重んじていたことから、問題解決に至るまでのアプローチ等の経験が役に立っていると実感しています。また、初めてのひとり暮らしを通して、これまでにない経験を、できるだけ積極的にするように心がけていました。

入社の決め手

多種多様な製品を扱っていて、かつ制御工学の専門知識を広い範囲で活用できる会社であったことが決め手です。制御工学は、ほぼすべての製品に必要とされる分野で、そのおもしろさは製品によって異なります。一つの製品に特化するよりも、制御工学という分野に特化したエンジニアになりたいという希望を抱いていました。そのため、制御工学を軸として、幅広い分野で活躍できる可能性がある会社として、川崎重工が候補に挙がったのです。 また、会社説明会での採用課の方や先輩社員の方の様子を見て、一緒に働きたいと直感的に感じたのも大きかったですね。この直感はまちがってなかったと思います。

チームメンバーから

久保 仁

精密機械カンパニー
ロボットビジネスセンター
自動車一部 設計二課

久保 仁

Hitoshi Kubo

ともに協力して、有能なロボットを
多方面に送り出したい。

ロボットは、さまざまなツールを持たせることで幅広い分野で活躍することができます。白尾くんはメカやハードの特徴をふまえたソフトウェアの開発が得意で、ソフトウェアの新しい技術やツールにも明るい。また、決めたことをやり遂げるパワーの持ち主でもあります。これからも協力して、さまざまな分野に有能なロボットを送り出していきたいですね。