挑戦者ファイル

04 志賀 章吾 車両カンパニー 営業本部海外営業部 法学部法学科卒 2008年入社

目指すは「完ぺき」。入札日当日の朝まで続いたラストスパート。

シンガポールの地下鉄車両入札案件。
想像を絶する膨大なドキュメンテーション。

「東京へ行ってくれ。シンガポールLTA(※1)への車両入札の案件が待っている」

2011年12月、上司からそう告げられた志賀は、表情が引き締まるのを感じた。シンガポールでは、2020年までに軌道系都市交通システムを現行の2倍に延伸する計画が進行中だ。その一環として地下鉄電車132両の発注先を決める入札案件が始動したらしい。想定受注金額は170億円を超える大型案件。これまでもLTAから数多く受注実績のある川崎重工としては、失注するわけにはいかない。はやる気持ちとともに志賀は速やかに残務をかたづけ、2012年1月、東京へ赴任した。

やる気十分で東京へやって来た志賀を待っていたのは、想像を絶する膨大なドキュメンテーション業務だった。入札案件では、LTAからの提示要件に基づき、数カ月かけて提案書類を作成して入札に臨む。価格、技術仕様、体制、スケジュール、財務状況。書類は多種多様だ。それらすべてのとりまとめ役が営業担当となる。とはいえ、営業部門の実務担当は志賀と上長のわずか2名。しかも志賀にとっては、それまで担当してきた出荷貿易業務とはまったく異なる業務で、ほぼ一からのスタートだ。

志賀はさっそく上長に教わりつつ、書類作成に取りかかった。まずは社内での入札説明会。営業部門で用意できる資料は限られている。多くは、工場の設計部門や品質保証部門へ協力を要請し、情報照会しなければならない。提案の勝負どころがどこにあるかを初期に見極め、的確かつ適時に関連部門へ依頼する。自分以外の担当者・部門が対応する業務のパフォーマンスをいかに最大化できるか。その手腕が求められた。

また当然のことながら、当該入札案件だけにかかりきりになれるわけではない。一方で、すでに受注済みの別案件についても、契約履行や債権回収といった業務を進めなければならない。同時進行するマルチタスクをミスや漏れなく大量にさばく。志賀は自身の能力の限界を感じながら、文字通り目が回るような日々を送った。

できることを最後の最後までやり抜く。
放心状態で迎えた、入札日当日の朝。

入札予定日が近づくにつれ、書類の精査も細かく厳しくなっていく。「ここのコストはもっと詰められるはずだ」、緻密に一つずつ課題をつぶしていく。そうした努力を積み重ね、ある一定の完成度を見たと志賀が感じていたとき、入札日を1カ月順延するという報せが入った。当初予定していた入札日の直前の出来事だった。「1カ月延びた・・・」、ほぼ完成している書類を前に一息つこうとした志賀だったが、上長が発したのはそれと正反対の言葉だった。「よし、あと1カ月。さらにスパートをかけてブラッシュアップしていこう」。あとは流すように走ってゴールへ向かうなどとんでもない。時間の許す限り、完ぺきな状態のゴールへ向けて全力で走り続ける。その決意を込めた宣言だった。

それからの1カ月、志賀はかつて経験したことのない領域へと足を踏み入れた。95%の完成度を持った書類を、0.1%ずつ積み重ねるようにして、さらに完成度を高めていく作業。必ず受注するために、できることを最後の最後までやり抜く。鉄のように固い上長の意思に、志賀は川崎重工という会社の、完遂を目指すスピリットを見た。

そして迎えた入札日前日。できあがった書類はオリジナル版だけでキングファイル9冊。それらをハンドキャリーに詰めて機内に持ち込んだ志賀らは、シンガポールへ飛んだ。現地に到着してからもなお書類の見直しは続いた。ゴールのテープを切るまで妥協は一切しない。その固い意思は、もう志賀の胸にもしっかりとあった。

入札日当日。夜を徹して見直しを重ねた書類とともに、志賀は放心状態で朝を迎えた。「やりきった・・・」。

それから4カ月後の2012年8月、世界各国の強豪メーカーを押さえ、川崎重工はみごとに受注を決めた。志賀の苦労が報われた瞬間だった。当時を振り返って志賀は笑う。「上長がいなければ、当初の入札予定日時点で自分は満足して書類を閉じていたかもしれません」。

この洗礼のような一件を糧に、志賀は2013年に入ってLTAの新たな入札に臨んだ。シンガポールLTAの新線向け地下鉄電車364両という大規模案件だったが、厳しい競争を乗り越え、2014年5月に再び受注を決めた。2012年の初案件の経験を生かし、入札対応を着実に行った結果だといえよう。これら2つの経験を自信にして、志賀はまた新たな案件へとチャレンジしていく。

  • ※1)LTA=Land Transport Authorityの略で、シンガポールの陸運庁を指す。

学生時代の私

ソフトボール部の副キャプテンとして、部員の取りまとめとキャプテンのサポートを担当しました。特に、レギュラーではない自分の役回りは、不満を抱きがちな非レギュラーメンバーたちの心を一つにし、チームとしてまとめること。組織で動くためには人的マネジメントがつきものですが、その一端を学ぶことができた良い経験となりました。

入社の決め手

もともと、海外事業に携わるチャンスがあるグローバル企業を志望していました。その中で川崎重工に決めた理由は大きく2つ。1つは、モノづくり企業として、海外に日本の技術を輸出する社会貢献性に共感したこと。そしてもう1つは、人。選考を通じてさまざまな社員の方と接する機会を得ましたが、ぜひ一緒に働きたいと思える人が多かったことから、入社を決意しました。