挑戦者ファイル

09 大谷 航太郎 モーターサイクル&エンジンカンパニー 営業本部 CP営業部 営業二課 商学部卒 2008年入社

欧州のバイクファンが待ち望むアクセサリ。期限は3日。イタリアの工場での奮闘。

入社3年目のオランダ赴任で
事務系ながらモノづくりを担当。

「えっ、私が? 本当ですか?」

上司から内示を受けた大谷は、喜びのあまり思わずそう聞き返した。オランダのモーターサイクル販売会社Kawasaki Motors Europe(以降KME)へ、トレーニーとしての赴任を命じられたのだ。当時、まだ入社3年目。海外勤務の希望は出していたものの、まさかこんなに早くその機会が訪れるとは思っていなかった。「せっかくもらったチャンス。精一杯ぶつかってこよう」、大谷は目を輝かせてオランダへ発った。

KMEは、川崎重工のモーターサイクル商品を取り扱う販売会社の、欧州におけるとりまとめ役を担う。欧州全体の商品注文を集約して日本の工場へ発注したり、欧州向けカタログの製作といった販売促進活動を手がけたり。また、欧州における今後の営業戦略の立案など、事業計画も手がけている。

大谷の赴任当時、川崎重工は欧州向けに「Versys1000」の発売を予定していた。「Versys」はファンライディングを追求したモデルで、その上位モデルである「Versys1000」は、数カ月かけて旅に出るような長距離ツーリングにも対応できる快適性や、1000ccの大排気量エンジンによる余裕あるライディングも追求したモデルだ。その「Versys1000」の発売に向け、KMEでは専用パニアケースブラケット(※1)の開発が進んでいた。アクセサリなど用品関係の業務を担当することとなった大谷は、さっそくこのブラケットの開発業務も引き継いだ。

日本で作成した設計図面に基づいて、欧州現地・イタリアの大手メーカーで製造する──。その計画で進められていたものの、メーカーからKMEに送られてくるサンプル品は、どれも寸法の異なるものばかり。当然、これではパニアケースの安全な装着は望めず、製造のGOサインを出すわけにはいかない。大谷は事務系ながら、設計図面に示された内容を必死に精査し、イタリアのメーカーに電話やメールで指示を出した。また、設計図面にも問題があるとわかると、日本国内のエンジニアに修正を依頼し、図面の改良も行った。しかし、メーカーから届くのはまたしてもNG品だった。

日本から迎えた生産技術者とイタリアの工場へ。
3日間の期限内に、量産化に向けた道筋をつける。

そうこうしている間に、「Versys1000」は欧州での発売をスタート。ロングツーリングを楽しもうとする購入者からは、「パニアケースは付けられないのか?」という問い合わせが相次いだ。欧州各国の販売会社からもKMEに対し、「パニアケースブラケットがなければバイクの販売にも影響する。返品も検討したい」とプレッシャーがかかった。もう限界だ。これ以上は待てない。大谷はイタリアのメーカーに乗り込んで、直接解決策を探ろうと考えた。しかし自分には技術力がない。そこで日本国内の生産技術部門と掛け合い、3日間の約束でイタリアに技術者を派遣してもらうよう交渉した。

数日後、大谷は生産技術のプロとともにイタリアのメーカー工場へ飛んだ。与えられたのは3日。それで何が何でも適合サンプル品をかたちにしなければならない。

現場での検証を終えた結果、大きく2つの問題に直面した。1つ目は検査方法に関する問題だ。測定においては測定基準の取り方が重要となるが、基準設定に問題があることがわかった。2つ目は製造工程の問題である。安定した品質を確保しつつ量産していく上で、最も重要である治具と呼ばれる器具に不備があったこと、作業手順が一定でなかったこと、工程間管理が徹底されていないことがわかった。

しかし、日本とイタリアではモノづくりの手法が違う。イタリア人エンジニアは、これらを問題と捉えていなかった。そこで大谷は、日本の生産技術者とイタリアのエンジニアとの間に通訳として入り、実際の作業工程に立ち会いながら、各工程のどこに問題があり、どのように改善してほしいかを説明する役割を果たすことにした。最初は相手側からの抵抗もあったが、ともに軍手をはめ、一緒に作業にあたりながら、一つひとつ丁寧に説明していくなかで、お互いに信頼関係が生まれていった。やがて、国籍を超えたチームとして団結していくことにより、事態も好転していった。

そして期限だった3日目の深夜、午前零時を迎えようという頃、「これが最後の勝負」と製作したサンプル品の寸法検査を実施した。一つひとつ、採寸していく。結果は、すべてOK。工場内に拍手がわき起こる。大谷は、満面の笑みをたたえたイタリア人エンジニアと、がっちり握手を交わした。

「Versys1000」の発売から遅れること数カ月、大谷の手がけたパニアケースブラケットは店頭に並んだ。その売れ行きは、大谷の予想をはるかに超えるものだった。車両本体販売数の20%という当初目標の、倍にあたる40%の販売個数を達成したのだ。国によっては最初から車両とセット販売されるなど、いかに市場が求めていたかを示す結果となった。

その後、オランダ郊外にふと立ち寄った大谷の前を、「Versys1000」が通り過ぎていった。見ると、どうやらバイクの長旅を楽しんでいるらしい。車体後方には、しっかりとパニアケースが装着されている。大谷はその姿を笑顔で見送りながら、「さあ、次だ」と情熱がわき上がるのを抑えられなかった。

  • ※1)パニアケースブラケット=パニアケースとは、ロングツーリング用に、バイク車体の後方左右に付けるハードケースのこと。ブラケットは、そのケースを装着するための専用アタッチメント。

学生時代の私

学生時代は大学の自動車部で、ジムカーナやダートトライアルに打ち込んでいました。メカニック、ドライバー両方の立場で部活を満喫していました。社会人になった今も、平日はメーカーの社員としてモノづくりを楽しみ、週末はライダーとして両方を満喫しています。

入社の決め手

大学時代の部活動で、メカニックとしてクルマの製作に携わり、モノづくりの楽しさを体験したことが、メーカーを志望した動機につながりました。そのなかでも、事務系社員に活気のある川崎重工を選びました。

チームメンバーから

山田 康弘

モーターサイクル&エンジンカンパニー営業本部
CP営業部 二課
2003年入社

山田 康弘

Yasuhiro Yamada

工場と販売会社双方から
深い信頼を寄せられる存在。

メーカーで働く社員としてモノに興味を持ち、それがどんな楽しみ、喜びをお客さまに提供できるかを考える・・・。そんな大谷くんの姿は、自然と協力者を増やす魅力を持っています。今後は、その魅力が工場と販売会社双方から深い信頼を置いてもらえるパイプ役として機能することは間違いありません。