挑戦者ファイル

03 岡田 崇志 船舶海洋カンパニー 神戸造船工場 潜水艦設計部 水中機器開発課 工学研究科 航空宇宙海洋系専攻修了 2013年入社

苦難の山を乗り越えて、この世にいまだ存在しない装置を生み出す。

入社2年目で突然の異動。
挑むは、自律型無人潜水船の開発。

「えっ? 水中機器開発課・・・ですか? は、はい、わかりました」

入社1年目を終えようかという頃、岡田は寝耳に水の内示を受けた。4月に新設される水中機器開発課への異動を言い渡されたのだ。1年間、潜水艦の設計に携わってきて、やり残したことがあるどころか、やっと何かをやり始めることができるかなというスタート地点に立った頃だった。異動先の水中機器開発課が手がけるのは、Autonomous Underwater Vehicle(自律型無人潜水機)、通称「AUV」だ。AUVとは、簡単に言うと水中で働く作業ロボットのようなもので、胴体にあたる船体に、腕の役割を果たすさまざまなアプリケーション装置を搭載することによって、水中で多様な作業を行う。船体とケーブルをつないで人間が母船上から操縦する遠隔操作型水中ロボット(ROV)に対し、CPUを備えたAUVは、自らの判断で行動する文字通り「自律型」である点が大きな違いだ。

そのAUVを、川崎重工として10数年ぶりに開発することになった。原油価格の下落によってコストダウンを強いられた石油業界で、海底作業をロボットがすることによって経費削減を図ろうという動きが出てきたためだ。この市場の潮流に対応した、省エネ・低コストタイプの多機能AUVを業界に先駆けて開発する。それが、水中機器開発課に与えられたミッションだった。

スタート時のメンバーは5名。岡田以外は、すでに数多くの開発案件を手がけてきた実力派の技術者ばかりで、そこに岡田がただ一人「ひよっこ」状態で配属となった。実はここには担当課長の考えがあり、「川崎重工としても、まったく新しいモノづくりへの挑戦になる。ぜひ固定概念がない新人の斬新な発想に期待したい」とオファーを出したのだ。そこから約3年にわたり、岡田が「山ばかり」と表現する、苦労の連続となった開発プロジェクトが進行していく。

斬新なアイデアで課題解決を図るも
実海域想定試験で失敗に次ぐ失敗。

次々と出現する「山」の中でも、岡田を最も手こずらせたのが、AUVに搭載する「海底土壌のサンプリング装置」の開発だった。この装置は、前述の多様なアプリケーション装置の一つで、最深2000mの海底に筒を打ち込んで土壌を採集する役割を担うもの。現状では、ROVを用いて行われているこの作業を、世界で初めてAUVでできるようにしようというのだ。

開発の核心部分となったのは、そのエネルギー源。深海で土壌に筒を打ち込むには、相当なエネルギーを必要とする。電池で駆動するAUVの負担にならない、飛躍的な省エネをかなえる採集方法を開発しなければ実用化は見込めない。そこで岡田ら開発メンバーは、ブレストを重ねてさまざまなアイデアを出し合っては実験を試み、やがて「水深2000mの深海が持つ水圧」をエネルギーとして活用する案にたどり着いた。深海中の極めて高い水圧と、サンプリング装置内の低圧とのギャップを利用してエネルギーを生み出し、採集筒を打ち込むというアイデアだった。

このアイデアはみごとに成功し、プールでの陸上試験をクリア。続いて、実海域を想定した試験を実施する運びとなり、岡田は上司とともに、東京にある国土交通省の外部研究所へ赴いた。ここにあるのは、最大で水深6000mまでの環境を作り出すことのできる試験設備だ。大がかりな設備で、深海環境を作るのにも時間を要するため、1日に2回しか試験を実施できない。短い試験期間中、限られたチャンスの中で、果たして成功まで導けるか・・・。

祈るような気持ちで試作機をセットした岡田の願いをよそに、採集筒は射出されなかった。いろいろ調整をして試してみるが、それでもうまくいかない。不具合箇所を探るべく上司と一緒に細かく分解して調べ、ようやく原因を突きとめた。何とか射出はできるようになったが、今度は土が筒の中に入らない。残念ながら、第一回試験期間はそこでタイムリミットとなった。岡田らは重い宿題を携えて神戸へと帰った。

続く第二回試験。採集筒の先端形状や径をより最適化した試作機を持ち込み、再び試験に臨んだ。しかし、またしてもうまくいかない。打ち込めても引き抜けないのだ。岡田は原因と考えられる部品を特定し、東京から神戸側に改良内容を指示し、改良版の部品を即日届けてもらった。そして、試験回数が残りわずかとなり、いよいよ追い込まれた時、ついに試作機は岡田らの望む性能を発揮した。試験設備の扉を開け、試作機の透明の筒に土壌が確かに入っているのを確認した岡田は、思わず「おぉっ!」と声を上げた。横にいた上司は岡田の背中をバンッとたたいて、「やったな」と笑った。

開発の厳しさと喜びを両方味わった
まさに洗礼のような案件。

サンプリング装置は、AUVの付加価値を高める重要なアプリケーション装置の一つだ。これまでROVでしかできなかったことをAUVで自律して行えるようになれば、川崎重工製AUVの極めて大きなアドバンテージ創出につながる。水中機器開発課は、今回のサンプリング装置関連技術を特許申請した。近く認められることになるだろう。岡田にとっては、開発の厳しさと喜びの両方を味わった、まさに洗礼のような案件となった。

AUV本体の開発も、同じように苦難の山を乗り越えながら何とか進めていき、ついに実物の組み立て工程に入った。3D/CADで描いていたものが実物になってできあがっていく様子を見て、岡田は感動を覚えた。もちろん初めての経験である。そのパーツの一つひとつ、フォルムの一つひとつに、自分の足跡を認めることができた。立ち上げから一貫して携わってきたからこそ感じることのできる感動である。

しかしもちろん、これで終わったわけではない。組み立てが完了すれば、プールでの確認試験、そして実海域での試験が待っている。うまくいくか、不安もある。その不安をどこまで払拭できるかは、これからの頑張りにかかっている。

そしてさらにその先。岡田らメンバーが本当の目標に据えているのは、商品化だ。今、進めているのはAUVのプロトタイプにあたる開発品に過ぎない。その価値を世の中に認めてもらって、初めて商品として送り出すことができる。乗り越えなければならない山はまだいくつもありそうだが、今の岡田にはそれも「よし、来るなら来い」と立ち向かえる、技術者としての覚悟が備わっている。

学生時代の私

個別指導塾の講師のアルバイトをしていました。初めはまったく興味を持ってくれない生徒に、いかにしてやる気を出させて成績を上げるかの試行錯誤に取り組んでいました。その結果、生徒からの指名を受けることも多くなり、人を動かすためには自分が動いて信頼関係を作らなければならないと学びました。

入社の決め手

大学時代に所属していた研究室が川崎重工と共同研究をしており、会社の雰囲気が良いと感じていました。就職活動が始まり、「海事産業説明会」という就活イベントに参加した際、川崎重工の先輩社員にいろいろな話を聞き、仕事のスケールの大きさと、実際に働いている先輩社員の印象がとてもよかったことが決め手となって、志望しました。

チームリーダーから

梅本 浩一朗

神戸造船工場
潜水艦設計部
水中機器開発課

向田 峰彦

Mukaida Minehiko

組織に勇気を与え、牽引する骨太の技術者に成長してくれるでしょう。

岡田君は人一倍、好奇心が強く、何事にも積極的に取り組んでくれています。また、コミュニケーション能力も非常に高く、当課のムードメーカーの役割も果たしてくれており、日ごろよりとても助けられています。AUV開発事業は、船舶海洋カンパニーにおける艦艇技術を応用した新事業分野の一つと位置づけられ、欧米勢の強い海外Subsea市場に参入することが期待されている、極めてチャレンジングな事業です。岡田君は艇体運動系、流体系、機械系のそのすべてを担当しており、AUV開発の中心人物です。本事業を通し、経験、知識を持ち合わせた骨太の技術者に成長することはもちろん、いずれは組織に勇気を与え、牽引する存在となることを確信しております。