挑戦者ファイル

05 安藤 拓 航空宇宙カンパニー 技術本部 哨戒機・輸送機設計部 装備設計課 工学研究科 航空宇宙工学専攻修了 2003年入社

国産機、2機種同時開発。油にまみれながらロマンを追う、前例のない挑戦。

新入社員で参画した一大プロジェクト。
自分が手がけた航空機が空を飛ぶ。

「あのプロジェクトは"初モノ尽くし"だからな。たいへんだぞ」

航空機作りに憧れて川崎重工を志望した安藤が、入社前にそう聞き及んでいた大プロジェクトがあった。防衛省の海上自衛隊向け次期固定翼哨戒機「XP-1」と航空自衛隊向け次期輸送機「XC-2」の同時開発プロジェクトだ。「XP-1」は初の純国産ジェット哨戒機であり、「XC-2」は国内開発の航空機としては最大規模。そして、用途の異なる大型固定翼機を2機種同時に開発するのは、世界でも例のないチャレンジとなる。

当時、「新入社員の自分にまさかチャンスは巡ってこないだろう」と他人事のように聞いていた安藤だったが、研修を終えて配属となったのは、まさにこの世界初挑戦プロジェクトの開発チームだった。担当は装備設計の動力装備担当。航空機を動かすエンジンまわりの設計だ。新入社員だろうと関係なくドンと担当を任され、安藤にとっても川崎重工にとっても「初めて」の挑戦がスタートした。

航空機の開発は、レイアウトを決める図面作成から始まる。次に、精密な製造図面を起こし、各種試験を実施しつつ製造に入っていく。安藤は、その初期段階から携わることとなった。約4年に及ぶ設計期間。初めての航空機開発で苦労が絶えなかった安藤を、入社5年目、最初のご褒美とも言える出来事が待っていた。XP-1の初飛行だ。工場の屋上に上がって、大空を舞うXP-1の雄姿を目にしたとき、安藤はこれまでにない感動に包まれた。「あれが、自分の作っている航空機・・・」。図面や部品の段階では感じ得なかったモチベーションの高まりを覚えた。しかし、それは同時に安藤のさらなる苦難の始まりでもあった。

じりじりと迫るタイムリミット。
苦難と感動に満ちた飛行試験期間。

実際に航空機を飛ばしてみると、事前には予想もしなかった事象が次々と出てきた。その一つひとつについて、エンジンの回転数や高度・速度といったデータを分析し、操縦した社内パイロットの意見も参考にしながら問題のありなしを判断し、必要とあらば次の飛行試験までの限られた期間内に対策を講じる。飛行試験にはさまざまな部門が関わっている。パイロットはもとより、生産部門、調達部門、業務部門、品質保証部門・・・。安藤のパートだけ作業が遅れて、飛行試験を順延させることなどあってはならない。

大きなプレッシャーの中、安藤は多種多様な事象と向き合った。若手とはいえ、設計を任された主担当。どのように対応するかは安藤の判断に委ねられている。自分自身で何とか判断できるものがある一方で、社内他部門や部品を製造する協力会社の力を借りて対策しなければならないものも多かった。スケジュールと技術面を両立させた対策を模索しつつ、各所と粘り強く話し合って協力を要請し、一つずつ課題をつぶしていく。個々のプロフェッショナルが力を発揮する高度なチームワークによって、着実に対策を実施していった。油や燃料にまみれながら・・・。

飛行試験を実施しては事象を確認、データを分析して、また次の飛行試験を迎える。そんな、常にタイムリミットに追われるような日々が、約1年続いた。その間、ときに折れそうになる安藤の心を奮い立たせていたのは、少年時代から抱き続けてきた航空機へのロマンだった。自分が手がけた航空機で空を舞う・・・。その夢は、道半ばながら飛行試験でかなえられた。データ計測係として機体に同乗させてもらったのだ。「もう記憶が飛ぶくらいうれしかった」と安藤が振り返るその試験飛行は、プロジェクト完遂まで安藤のモチベーションを支えるには十分すぎる体験となった。

そんな苦難と感動に満ちた飛行試験期間の後、2008年8月にXP-1は防衛省へ納入され、防衛省による試験評価を経て2013年3月に開発を完了し、量産機P-1(※1)が厚木基地に配備された。

振り返っているヒマなどない。
何としても無事に飛行し、着陸を決める。

2013年9月。P-1は量産機の製造中、XC-2は防衛省による試験評価を実施中である。世界初のチャレンジは、いよいよ最終段階に入った。そして安藤は、いまだ渦中にいる。振り返っているヒマなどない。新しい航空機開発の最初から最後までを一貫して手がける・・・、望んでも叶わない夢のような経験をさせてもらった。あとはプロジェクト完了まで、何としても無事に飛行し、着陸を決めるだけ。

「うちの部署は、ずっと最大風速の向かい風が吹いているようなもの」と安藤は笑う。向かい風を利用して上空へと飛翔する航空機のように、安藤もまた、向かい風に負けることなく、それを浮力に上へ上へと成長を続けている。

  • ※1)P-1=型式から試作記号のXが除かれたもの。

学生時代の私

勉強そっちのけで、青年団やボランティア活動といった社会福祉・社会教育系の活動に情熱を燃やしていましたね。どんな事業でも準備次第で9割方の成否が決まるため、知恵を絞ってあれこれと準備をしていましたが、少しでもサボると当日予想もしなかったトラブルにあわてることになりました。今の業務においても、事前に十分に考えて本番に臨む姿勢を忘れないようにしています。

入社の決め手

航空機の設計ができること、それが企業選びの第一条件でした。なかでも川崎重工を選んだのは、OBの方にお会いして、「若手がどんどん責任のある仕事を任される」と聞いたことと、美しい航空機を作っている会社だというイメージを持ったことが大きく影響しました。また、大学の特別講義で講師を務められたOBの方が、過去の業務での苦労話を楽しそうに語られていたことも、志望にあたっての決め手の一つになりました。

チームリーダーから

山口 慶生

航空宇宙カンパニー
技術本部
哨戒機・輸送機設計部 装備設計課

山口 慶生

Iwao Yamaguchi

他分野のメンバーからも頼りにされる
「航空機博士」。

安藤くんは、防衛省大型機の2機種同時開発という、これまでに類を見ないビックプロジェクトにおいて、航空機の重要部分である動力装備系統について、設計から顧客先での飛行試験の支援まで一貫して担当。10年にも及ぶロングスパンである航空機の開発を通しで経験した、国内でも数少ない貴重なエンジニアです。

根っからの航空機好きで、古い年代の航空機についても非常によく知っている、まさに「航空機博士」。その博識を活かして、動力分野に限らず他分野のメンバーとも積極的に関わりを持ち、航空機全般を視野に入れて開発を進めてくれました。